海沿いの街での休暇。宿泊、食事、ちょっとしたスイーツまで仮想通貨で払えるならどうでしょう。ホンジュラス共和国の観光地サンタルシアでは、60もの地元企業が協力して「ビットコインバレー」と呼ばれる場所を作り、このアイデアを実現しようとしています。
こうしたプロジェクトは、中米で初めてというわけではない。エルサルバドルは昨年ビットコインを法定通貨にしたことで脚光を浴びました。しかし、このホンジュラスのリゾートが仮想通貨を決済手段として独自に取り入れた最初の街となります。
集まる批判
エルサルバドルの悲惨な現状は、サンタルシアのプロジェクト参加企業にとっては警告に他なりません。同国の経済は仮想通貨市場の低迷により深刻な影響を受けており、公開されている保有資産価値は約50%減少しました。そのため、この状況を国家単位のギャンブルに例える金融専門家が一部いるほどで、現在は仮想通貨が使用できるカジノもあるため、言い得て妙といったところでしょう。
ビットコインの分散性と匿名性から金融犯罪が容易となってしまうことを危惧している仮想通貨批評家もいます。取引に関しては全て公的記録がある一方で、当事者は匿名のままであり、マネーロンダリングなどを阻止することはほぼ不可能です。また、デジタルテクノロジーにアクセス出来る人と出来ない人の間での格差、つまり社会における「デジタルディバイド(情報格差)」を助長するとも警告しています。ビットコインバレーに参加していないだけで、中小企業が競争力を失うことが考えられるのです。
しかしながら、ビットコインバレーの主催者側は、失敗することはなく、観光地であるサンタルチアに恩恵あるものだと主張しています。
ビットコインバレーの可能性
「ビットコインバレー」プロジェクトは、元企業に多くのビジネス機会を創出し、仮想通貨の利用を希望する顧客を増やすことで成果を上げるとしています。すでにプロジェクトに参加している60もの企業は、仮想通貨を使った製品やサービスの販売方法について特別なトレーニングを受け、その知識や経験をより多くの地元企業へ普及することになっています。
プロジェクトパートナーであるホンジュラス工科大学のRuben Carbajal Velazquez教授はロイターの取材に対して、サンタルシアの地元コミュニティはこの技術を様々な分野に統合し、その過程で「仮想通貨ツーリズム」という新しい概念を生み出すだろうと語っています。
さらに、同様にプロジェクトパートナーであるBlockchain HondurasのLeonardo Paguada代表は、ビジネスが現地通貨での即時決済を受け取ることで仮想通貨の「変動リスク」を回避できると述べています。
グアテマラの仮想通貨取引所コンソーシアムであるCoincaexも、この野心的なプロジェクトを支えるパートナーであり、ラテンアメリカにおける仮想通貨イニシアチブの1つです。同国シエラ・マードレ山脈のアティトラン湖の近くには最近作られた独自の「ビットコインレイク」があり、市長はビットコインの使用を推進し、本来無駄になるエネルギーを使用したマイニングを行なっていると述べています。しかし、地元の人々からは、このプロジェクトが湖の環境を破壊しているとの批判を集めています。
仮想通貨の未来
ビットコインバレーの当事者の意思に関係なく、プロジェクトの成功は仮想通貨の命運に掛かっています。
エルサルバドルの経済低迷は、2021年末のビットコインの価値の下落によって悪化し、それ以降も経済状況に改善の兆しは見られません。一部の専門家が「仮想通貨の冬」と呼ぶ2022年の暴落は未だ続いており、ビットコインは2021年に記録した最高値の3分の1に過ぎない2万ドルさえ超えることができていません。
仮想通貨の変動性は、仮想通貨経済にとっては依然として重大な問題です。さらに、大国である中国とインドが程度の差こそあれ仮想通貨流通を制限や禁止しており、仮想通貨を取り囲む環境は必ずしも良いとは言い切れません。
仮想通貨市場は安定しない激しいジェットコースターのようなもので、サンタルシアのような街を待つのは、繁栄か破滅か。その答えは神のみぞ知るといったところでしょう。