米生活雑貨販売大手のベッド・バス・アンド・ビヨンドが23日、米連邦破産法11条(チャプター11)の適用を申請した。負債総額は52億ドル(約7000億円)。かつては米雑誌フォーチュンの「急成長企業500社」に選ばれ、日本からも多くの小売業者が視察に訪れる優良企業だった。破綻の原因となったのは消費スタイルのデジタル化、新型コロナ、そして米国の金融不安だ。
23日午前、通常通り営業を始めたロサンゼルスの高級住宅街ソーテル近くの店舗には、ちらほら来店客の姿があった。近隣に住むサンディ・クイーンさんは「まさか破産したとは知らなかった。品ぞろえが豊富で良い店だったのに」と残念そうに話した。店員は淡々と働いていたが、いつまで営業するのかとの問いに「今は何も知らない」と短く答えた。
同日、ニューヨーク市内の店舗でも営業した。市内に住む70歳代の男性、エドさんは「今は何でもオンラインで買えるが、手に取って選ぶのが好きだった」と破産申請を残念がっていた。
ベッド・バスは現在、360の生活雑貨・家具店と、120のベビー用品店を運営している。米メディアによると2月下旬時点の従業員数は3万2000人。当面は店舗の営業を続けながら事業売却を試みるが、不調に終わった場合は大規模な店舗閉鎖に追い込まれかねない。雇用も相当数が失われ、弱含む米景気に打撃となるのは避けられない。
ベッド・バスは1971年の創業。センスの良いデザインのタオルやシーツ、小物類などを多数そろえる「ホームファッション」販売の先駆的な企業だった。数メートルの高さがある壁一面に、色彩豊かなバスタオルがぎっしりと並び、視覚的に消費者に訴えて購買意欲をかき立てる店舗デザインが人気の秘訣だった。
元最高経営責任者(CEO)のスティーブ・テマレス氏の経営手腕の下、一時は1500超まで店舗数を拡大。大規模なチェーン店網を築いて価格競争力を高め、2011年ごろには年間売上高が100億ドルを超え、粗利率は40%超という小売業では「超」がつくほどの高い収益性を誇っていた。
日本企業からも視察者が多数訪れ、「無印良品」や「ニトリ」などのホームファッションブランドの戦略にも影響を与えた。実際、ニトリホールディングスが2013年に米国に進出した際には、商品を高く陳列するなど、ベッド・バスの販売スタイルに倣ったとされる。
最初の転機は2010年代半ばから訪れた米アマゾンなどネット通販企業がもたらした消費スタイルの変化、いわゆる「アマゾン・エフェクト」だ。生活雑貨でもオンライン販売が一般化し、店舗に多数の在庫を並べて消費意欲を高めるベッド・バスのスタイルは徐々に時代遅れになり、消費者の関心は薄れていった。
20年から本格化した新型コロナウイルスの感染拡大で、店舗への集客ができなくなったのは致命的だった。
米小売大手の代表格ウォルマートは店舗での販売に加えて、通信販売やオンライン注文して店舗で受け取るスタイルも取り入れるなど、多様な販売形態ができる「オムニチャンネル化」を進め、デジタルシフトと新型コロナの荒波を乗り越えた。だがベッド・バスはホームファッションで一時代を築いた慢心もあったのか、オンライン投資に乗り遅れていた。
近年は収益の悪化により十分な店舗在庫もそろえられなくなり、店舗販売モデルは機能しなくなっていた。最終的には2022年9〜11月期まで7四半期連続で赤字を計上。「ミーム株(はやりの株)」として個人投資家の関心を集め、短期売買で株価が乱高下し、経営のコントロールは難しくなっていった。
同社は22年ごろから生き残りをかけてリストラを断行。店舗数を500以下にまで縮小し、収益力回復に努めたが、とどめを刺したのが23年3月のシリコンバレーバンク破綻に始まる米国の金融不安だ。銀行からの融資が絶望的になる中、最後は株式の新規発行で市場からの資金調達を試みた。景気の先行き懸念が強まる中で思うように資金は集まらず、自力再建の道が絶たれた。
新陳代謝に失敗し、経営破綻に追い込まれた米国の名門小売業は少なくない。2019年にはネット通販の台頭によりファストファッション大手のフォーエバー21が破産。新型コロナによる生活スタイルの変化では、スーツなどアパレルの老舗、ブルックス・ブラザーズがあおりを受けた。
ベッド・バスのスー・ゴーブCEOは23日の声明の中で「愛されてきたブランドを支え、強化するという偉大な目的を持ってこれまで働いてきた」と悔しさをにじませた。事業の存続に向けて売却を模索するが、ビジネスモデルが色あせてしまった同社を立ち直らせるのは容易ではない。
とはいえ、長年浸透してきたブランドに価値を見いだす投資家が現れる可能性もある。米国には企業再建を得意とするファンドなども多い。フォーエバー21とブルックス・ブラザーズは同じ投資ファンドの傘下に入り、前者は23年春に日本にも再上陸を果たした。ベッド・バスも次のスポンサーの下で新たな流通革新を生み出すかもしれない。